名古屋高等裁判所 昭和62年(ネ)84号 判決 1988年8月30日
控訴人 オリエント・リース株式会社
右代表者代表取締役 宮内義彦
右訴訟代理人弁護士 松田安正
被控訴人 花岡農連農業協同組合
右代表者理事 梅田勇
右訴訟代理人弁護士 大道寺徹也
同 長屋貢嗣
主文
一 控訴人の原審昭和六〇年(ワ)第一四六号事件に関する控訴を棄却する。
二 控訴人の原審昭和六〇年(ワ)第二七六号事件に関する当審における新たな請求に基づき、原判決主文三、四項を次のとおり変更する。
1 被控訴人は控訴人に対し、金一七五〇万円及びこれに対する昭和六〇年一〇月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 控訴人の主位的請求及びその余の予備的請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審を通じこれを二分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
4 右1項は、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の申立
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 (原審 昭和六〇年(ワ)第一四六号事件。以下「A事件」という。)
被控訴人の請求を棄却する。
3 (原審 昭和六〇年(ワ)第二七六号事件。以下「B事件」という。)
(一) 主位的請求
控訴人と被控訴人との間の原審 昭和六〇年手(手ワ)第二六号約束手形金請求事件について原裁判所が昭和六〇年一二月一八日言い渡した手形判決を認可する。
(二) 予備的請求(当審における新たな請求)
被控訴人は控訴人に対し、金二五〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年一〇月二一日から支払済みまで年一二・五パーセントの割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
5 3(二)につき仮執行宣言
二 被控訴人
1 控訴人の本件控訴及び当審における新たな請求を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二当事者の主張
一 A事件について
A事件についての当事者の主張は、次に訂正、付加するほか、原判決三枚目表四行目冒頭から同一二枚目表八行目末尾までの記載と同一であるから、これを引用する。
1 原判決九枚目表四行目の次に、行を改めて次のとおり加える。
「なお、前記のとおり第一回貸付及び本件貸付の契機となったグリーンタウンの造成工事の完成は、単に丸十産業のみの利益に関するものではなく、被控訴人及び信連共に多大の利害関係を有し、丸十産業、被控訴人及び信連は、一体となってその造成工事の施工を推進していたものである。このような経済的利害関係の下に、被控訴人は、第一回貸付及び本件貸付における共同借主となったものであって、農協法上保証行為が制限されている点を潜脱する意図で、形式的に共同借主の体裁をとったにすぎないものではない。
すなわち、丸十産業と被控訴人及び信連との関係、被控訴人らが丸十産業に多額の融資を行うに至った経緯等は、大要、第一回貸付及び本件貸付に際し、控訴人担当者が丸十産業等から事情聴取をし、その他関係資料等を調査した結果判明した事実として先に触れたとおりであって、要するに、被控訴人及び信連は、従前グリーンタウンの造成工事を施工していた林勇に対し多額の融資をしていたところ、同人の倒産によりその債権回収が極めて困難となり、右団地の造成工事を他に引き継がせて施工し、販売未了物件を宅地に完成させて販売するのでなければ、右債権の回収がおぼつかない状態となったため、かねてより被控訴人及び信連との取引(融資)関係があり、その実績の認められていた丸十産業をして、右団地の造成工事の続行に当たらせることとし、かつ、経済連の協力も受け、丸十産業に対し、造成工事のための資金面、技術面、造成土地の販売面等において全面的な支援態勢をとることとしたものである。
丸十産業は、右のように被控訴人らから全面的な支援を受け、逐次関係土地の取得、造成工事の施工に当たったが、工事の内容が、単に既成工事の補修にとどまらず、既成区画及び道路に相当大幅な変更を加え、より整然とした区画に修正するものであったため、工事予算として総額七億円余を要するものと見込まれ、このうち被控訴人と信連で計三億五〇〇〇万円を融資し、その余の工事代金等二億四五〇〇万円については、金利を付した延払いとし、造成土地の販売代金をもってその返済に充てるものとされていた。ところが、被控訴人らからの融資は、予定どおり行われたものの、工事の遅延その他の事情により、土地分譲が遅れることとなり、第一回貸付の前ごろ、土地分譲により販売代金が回収されるまでの間、丸十産業において、短期のつなぎ融資約一億円を受けるべき必要が生じた。被控訴人としては、多額の債権回収を図る上でも、是非とも右つなぎ融資を行わなければならない立場にあったものの、右融資を行うためには、被控訴人の融資限度(一件三〇〇〇万円)からして、更に四名の借入名義人たる組合員を調達する必要があったので、その煩を避けるため、被控訴人は、右のとおり、いわば本来は自己が行うべきつなぎ融資の肩代わりをしてもらうという趣旨で、丸十産業と共に、控訴人に対し、第一回貸付、次いで本件貸付の依頼をするに至ったものである。
控訴人においても、第一回貸付及び本件貸付の申込が以上の事情に基づくものであることから、第一回貸付の前、被控訴人に対し、被控訴人を単独借主とし、その融資金を被控訴人が丸十産業に転貸する方法を求めたが、被控訴人側から、前記のとおり丸十産業に対する貸付枠に制限があるとの話が出され、結局丸十産業との共同借入という態様で貸付が行われた経過がある。
以上のとおり、被控訴人は、実質的には、前記グリーンタウン造成工事を丸十産業と一体となって施工していた共同事業者というべき立場にあり、控訴人から第一回貸付及び本件貸付を受けることにより、多額の債権を回収し得るという直接的かつ重大な利害関係を有していたのであって、右各貸付における被控訴人の債務負担行為は、決して、単に他の事業主体に対し、一方的に利を与えるべき保証行為の性格を有していたものではない。このような共同借入の実質を備えた法律行為につき、控訴人、被控訴人双方において、農協法上保証行為が制限されていることも念頭に置き、農協法上全く制約のない消費貸借契約(共同借入)の方式を選択したことは、何ら非難されるべきではなく、これをもって無効な行為と解するのは、法律上の論理法則を無視したものといわざるを得ない。」
2 同九枚目裏一行目の「としても」の後に「、それが被控訴人の財産に著しい損害を与えるおそれのある場合でなければ無効とはならないと解すべきところ、」を加え、同三行目の次に、行を改めて次のとおり加える。
「すなわち、前記のとおり被控訴人は、信連と共同して、林勇に対する貸金債権を回収するため、丸十産業をしてグリーンタウンの造成工事を行わしめ、これを全面的に支援してきたものであって、前記一億円のつなぎ融資が行われないと、右宅地造成工事が無に帰し、丸十産業に対する巨額の融資金の回収さえ不能となる危険が存したところから、これを回避すべく、控訴人に対し右つなぎ資金の融資方を依頼したものである。したがって、被控訴人の本件債務負担行為は、被控訴人やその組合員に損害を及ぼすべきものではなく、むしろ、その利益のために行われたものというべきである。なお、右の点は、先に行われた丸十産業に対する多額の融資自体が被控訴人の財政に影響を及ぼしたか否かとは別個の評価すべき事柄であり、また、その判断は、本件債務負担行為が行われた時点におけるいわゆる経営判断の原則により行われるべきものであって、事後の結果に基づく過失責任理論を適用すべきものではない。本件債務負担行為は、グリーンタウンの造成事業の完成による被控訴人及び信連の貸付金の回収と、右造成資金の融資による利息の収入が債務負担のマイナス面より優位に立つとの当時の経営判断によるものと考えられる。また、当時、丸十産業が倒産し、これに対する債権回収が不能となるような不測の事態の出現は、何人にも予見し得なかったものである。」
3 同一〇枚目表四行目の「豊角伝三」の後に、括孤書で「正式には「豊角傅三」。以下も同様である。」を加え、同枚目裏四行目の末尾に次のとおり加える。
「また、控訴人主張の、丸十産業において一億円のつなぎ融資を受ける必要が生じたとの点も、被控訴人は全くこれを知らず、そもそも関知しない事柄であって、被控訴人において、丸十産業に対し、右つなぎ融資をしなければならない義務は全くなく、これによって被控訴人が経済的利益を受けるということもなかった。」
4 同一〇枚目裏九行目の「債務を、」を削る。
二 B事件中主位的請求について
B事件中主位的請求についての当事者の主張は、原判決一二枚目表一〇行目冒頭から一三枚目裏六行目末尾までの記載と同一であるから、これを引用する。ただし、同一三枚目裏六行目の次に、行を改めて次のとおり加える。
「なお、手形振出行為は、原因関係と離れて債務を負担する行為であり、信用業務を営む被控訴人は、この点を十分認識して本件手形の振出行為に及んだものであるから、本件貸付契約につき何らかの瑕疵が存在したとしても、被控訴人は、みだりにその原因関係の欠缺を抗弁とし得るものではない。」
三 B事件中予備的請求について
(請求原因)
仮に、本件貸付が無効であり、被控訴人の控訴人に対する本件手形上の債務も生じないとすれば、被控訴人は、以下の事実関係に基づき、控訴人に対し、農協法四一条、民法四四条、あるいは、民法七一五条による損害賠償責任を負うものというべきである。
1 責任原因
(一) 第一回貸付及び本件貸付当時被控訴人の組合長であった豊角傅三(以下「豊角」という。)、同じく参事であった今西一郎(以下「今西」という。)は、共同して、第一回貸付及び本件貸付を受けることが農協法上許されないことを知りながら、これを秘し、その職務権限やこれに基づき保管していた印章等を悪用し、他の理事らの了解を得ることなく、第一回貸付及び本件貸付を受けることが承認されたかのごとき虚偽の被控訴人の理事会議事録を偽造し、その認証謄本を作成してこれを控訴人に交付したほか、同様控訴人らに対し、第一回貸付及び本件貸付に関し、金銭消費貸借契約書、公正証書作成嘱託委任状、根抵当権設定契約証書を作成、交付し、更に、丸十産業と被控訴人を共同振出名義とする本件約束手形を振出、交付するなどした。右豊角及び今西の行為は、故意による違法な職務執行行為(職権の濫用、逸脱があるとしても、外形上職務執行と認められる行為)というべきである。
(二) 第一回貸付及び本件貸付が行われた当時における梅田勇外被控訴人の他の理事は、前記A事件の再抗弁中において被控訴人ら自ら主張するとおり、少なくとも、昭和五九年四月末ごろ、豊角について職権濫用があった旨の疑惑を抱かせるに足りる新聞報道が行われた以降も、豊角及び今西の業務執行に対し適切な監督を行わず、漫然同人らに業務執行を継続させ、そのため右(一)のような豊角及び今西の違法な行為を招いた。右各理事らの行為には、豊角、今西に対する選任、監督上の過失があるというべきである。
(三) 右各事実によれば、被控訴人は、農協法四一条により準用される民法四四条所定の機関の行為についての責任、若しくは、民法七一五条所定の使用者責任を負うべきものである。
2 損害
控訴人は、第一回貸付及び本件貸付につき、直接折衝にあたった豊角の言動や丸十産業、豊角らから提出のあった資料を信頼し、その有効性には何ら疑問を感じることなく第一回貸付及び本件貸付を行った。ところが、本件貸付金のうち、二五〇〇万円については弁済があったものの、残金二五〇〇万円については、弁済の行われないまま、昭和六〇年一〇月ごろ、丸十産業が倒産し、本件貸付に際し丸十産業から提供を受けた担保物件からの債権回収も期待できない状況にある。したがって、控訴人は、右貸付元金残金二五〇〇万円及びこれに対し、弁済期(本件貸付に際し、昭和六〇年一〇月二〇日と定められた。)後支払われるはずであった年一二・五パーセントの割合による遅延損害金(同割合の利息約定による。)の弁済を受けられないこととなり、同額相当の損害を被ったというべきである。
よって、控訴人は、B事件についての予備的請求として、被控訴人に対し、右損害賠償金二五〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年一〇月二一日から支払済みまで年一二・五パーセントの割合による金員の支払を求める。
(請求原因に対する認否)
1 請求原因1(一)のうち、豊角が虚偽の被控訴人の理事会議事録を作成したことは認め、その余は否認する。今西は、第一回貸付、本件貸付やこれに関連して控訴人に交付された書面の作成には、全く関与していない。
2 請求原因1(二)は否認する。梅田勇外の理事は、三重県農協中央会及び三重県農協信用連の職員の指導の下に、豊角に対し、可能な限りの監督を行っていたものであり、かえって、第一回貸付や本件貸付自体、豊角、丸十産業と控訴人との間で、被控訴人の他の理事や参事に知られないように、ひそかに行われたものである。
3 請求原因2は否認する。
(被控訴人の主張)
1 控訴人の予備的請求は、本件貸付が無効である場合を前提とするものであるが、かかる行為が農協法一〇条の制限により無効とされるのは、非営利法人としての農業協同組合の経済的基礎を確実にするためであると解されるのに、当該農業協同組合の理事が右農協法一〇条の制限に触れる無効な行為をしたとの理由で、民法四四条に基づく不法行為責任が生じるならば、結局のところ、農業協同組合が経済的出捐を余儀なくされ、その経済的基盤を危うくすることになるから不合理である。また、右のような農協法一〇条の制限に反する理事の行為は、農業協同組合として、およそ行い得ない性質のものであるから、これにより取引の相手方に損害が生じたとしても、これをもって、理事がその職務を行うにつき与えた損害ということはできない。したがって、本件においては、そもそも民法四四条の適用はないものというべきである。
2 仮にそうでないとしても、取引の相手方において、農業協同組合の理事の行為がその職務権限に属さないことを知り、又は、知らないことにつき重過失があるときには、当該農業協同組合は、民法四四条の責任を負わないものと解すべきところ、控訴人は、被控訴人の本件債務負担行為が農協法一〇条六項二号、被控訴人定款二条(13)の規定の制限に触れ無効となることを明白に認識していたか、少なくとも、これを知らないことにつき重過失があったものというべく、いずれにせよ被控訴人は、民法四四条の責任を負うものではない。
(被控訴人の主張に対する控訴人の認否、反論)
1 被控訴人の主張1は争う。
2 同2の主張は否認する。控訴人において、本件貸付行為が有効であると信じてこれを行ったことは、前記のとおりであり、また、これにつき控訴人に重大な過失はなかった。
なお、右のとおり控訴人に重大な過失がなかったとする主たる根拠は、次のとおりである。
(一) 控訴人の課長水野昌也は、被控訴人が他の債務につき保証行為を行うことには制限があると解し、前記のとおり、まず被控訴人に対し、直接被控訴人宛に貸付を行うことを求め、これがいれられなかったため、丸十産業と被控訴人との共同借入方式につき、法律その他による制限がないかどうかを調査した。その結果、前記のとおり、農業協同組合の借入行為については法令上の制限はなく、被控訴人の総会で定められた借入限度額(総額五億円)からいっても、右方式によることが可能であると判断した。また、控訴人の内部運営上、かかる貸付については、審査部の承認を要するとされていたことから、右水野は、審査部長らの承認、指示をも得て、所要の手続を進めた。
控訴人側から提示した、右共同借入による契約方法につき、丸十産業や豊角ら被控訴人側から、これを問題視する発言は全くなかった。
(二) 第一回貸付及び本件貸付に際し、控訴人が被控訴人に提出を求めた書類は、これまた被控訴人側から何らの異議も出されず、すべて滞りなく作成、提出された。殊に、第一回貸付の際には、一部の契約書類につき、豊角不在中の被控訴人事務所において、公然と作成、交付が行われた。
(三) 控訴人は、第一回貸付及び本件貸付に際し、念のため、それぞれ当該貸付につき、理事会で承認された旨記載のある議事録の提出を求めたところ、被控訴人の用せんにタイプされ、理事の記名捺印が行われた議事録の写しに、被控訴人名義の認証文言が付記された謄本が今西、又は、被控訴人の職員を通じて控訴人に交付された。
(四) 控訴人は、第一回貸付及び本件貸付に係る貸付金が、一般的に直ちに農業協同組合の事業に属するとはいえない土地造成の資金に充てられることを了解していたが、この点についても、前記のとおり、控訴人としては、グリーンタウンの造成につき被控訴人が共同事業者の立場にあり、その成否につき直接の利害関係を有するものであるとの理解の下に、実質的にみて、被控訴人が共同借主として第一回貸付及び本件貸付を受けることには、何ら問題がないと考えた。
以上の諸状況からして、控訴人に重過失のなかったことは明らかである。
第三証拠関係《省略》
理由
一 当裁判所の認定した事実関係
当裁判所が本件につき判断を加える前提として認定した事実関係は、次に訂正、付加するほか、原判決一四枚目表二行目冒頭から同二〇枚目表九行目末尾までの記載と同一であるから、これを引用する。
1 《証拠訂正等省略》
2 同一五枚目表一行目の「信連」から同五、六行目の「取引関係のあった」までを次のとおり改める。
「被控訴人は、信連と共に、少なくとも昭和五五年ごろから、宅地の造成、販売を業とする丸十産業に対し、事業資金の融資を行ってきた(ただし、被控訴人から丸十産業に対する融資については、丸十産業が被控訴人の組合員でないことから、直接はその役員等関係者に貸し付け、これを丸十産業が利用するといういわゆるうかい融資の方法がとられた。)ところ、昭和五八年に至り、丸十産業が伊勢市上野町地内で通称グリーンタウンの宅地造成事業を始めたのを契機に、丸十産業に対し、信連共々多額の融資を行うようになった。被控訴人らが右のように丸十産業に対し多額の融資を行うようになったについては、従前グリーンタウンの宅地造成事業を進めていながら中途で倒産した林勇に対し、相当多額の未回収債権を抱えていたことが関係していたものと推測される。
丸十産業は、右のとおり、グリーンタウンの宅地造成事業に着手したが、造成費用の見積額が昭和五八年九月ごろの時点で、用地取得費を含め約七億円の巨額に上り、資金不足を来した。丸十産業は、右資金のうち相当部分を右のとおり被控訴人及び信連からの融資に頼っていたものの、借入枠の制限などにより、更に被控訴人らから融資を受けることが困難となり、他から融資を受ける必要に迫られた。そこで、丸十産業代表取締役周藤栄一は、同会社取締役であり、当時被控訴人の組合長でもあった豊角とも協議した結果、しかるべき金融機関に対し、被控訴人が保証人となることを条件に、融資の依頼をすることにし、そのころ」
8 同一五枚目表九行目の「丸十産業は」の後に「前記のとおり」を同枚目裏三行目の「経済連」の後に、括孤書で「三重県内の被控訴人をはじめとする各単位農業協同組合を会員として組織されている連合会の一つ」を、同五行目の「信連」の後に「等いわゆる農協関連組織」をそれぞれ加える。
4 同一六枚目表六行目の「貸付けること」を「貸し付け、これを被控訴人において丸十産業に転貸融資する方法」に、同七行目の「それはできないということになり、」を「丸十産業側から、被控訴人からは既にその融資枠一杯に融資を受けており、更に融資を受けるのは困難であり、したがって、控訴人の希望する方法は採れないとの話が出され、」にそれぞれ改め、同一一行目の末尾に次のとおり加える。
「なお、控訴人の右貸付担当者らは、右貸付を行う際及びその後も含めて、特段、他の関係機関等に対し、右の方式による貸付契約が農協法上の右制限に触れないかどうか確認しなかった。」
5 同一七枚目表五行目の「金一億円が」の後に「事前に丸十産業から出されていた希望に従い、」を同九行目及び同一九枚目表二行目の各「議事録」の後に、いずれも「の写し」をそれぞれ加える。
6 同一九枚目裏二行目の末尾に次のとおり加える。
「丸十産業に積極財産は存在せず、その代表者周藤栄一及び豊角は所在不明となり、控訴人において、丸十産業や前記各連帯保証人から、本件貸金債権の回収を行い得る見込みは全くない。」
7 同一九枚目裏六行目の「全くなく、」を次のとおり改める。
「全くなかった。また、実際に、従来被控訴人が例外的に借入を行う場合の借入先は信連に限られ、その場合には、事前に被控訴人の理事会で了承を得る手続がとられていたものであるが、豊角は、第一回貸付及び本件貸付を受けるに際しては、前記のとおり、被控訴人の理事会には一切諮らず、しかも、控訴人に対し、前記のとおり虚偽の内容を記載した理事会議事録を作成、提出してまで右各貸付を受けようとしたものであり、」
8 同一九枚目裏一一行目の「常勤理事」の後に「で、いわゆる対外的な業務執行者」を、同二〇枚目表三行目の「無関心であった」の後に、括孤書で「例えば、各融資先の事業内容、融資額の多寡、増減等の検討はされず、経理上貸付金に対する利息が計上されていれば事足りるとしていた。」を、同行目の「ため、」の後に「前記のとおり丸十産業に対し多額の融資が行われてきたこと自体を意識していなかったし、」をそれぞれ加え、同五行目の末尾に次のとおり加える。
「また、昭和五七年五月以来被控訴人の参事の職にあった今西も、本来被控訴人の業務執行全般に精通しているべき立場にあるにもかかわらず、豊角に対し、丸十産業に対する融資の仕方や第一回貸付、本件貸付の件につき助言、忠告を行うことは全くなかった。
更に、第一回貸付と本件貸付の間の時期にあたる昭和五九年四月二七、二八の両日、朝日新聞、毎日新聞、中部読売新聞、伊勢新聞及び中日新聞等の紙面に、被控訴人の組合長である豊角が倒産した日新電機工事株式会社に対し裏金利を取って多額の不正融資をしていた疑いがある旨及び監督官庁である三重県農政課が事実調査に乗り出す予定である旨が大きく報道され、豊角の業務執行に疑惑があることが明るみに出たにもかかわらず、被控訴人の他の理事ら役員は、豊角の業務執行が適正であるかどうかについて具体的に調査することなく、理事会における豊角の「貸付等の具体的内容は秘密事項であるから理事会においても公表することはできない。私を信用してください。もし私の業務執行に基因して被控訴人に損害が生じるようなことが起きれば、全私財をなげうって被害弁償するから、私に任せておいて欲しい。」との強弁に押し切られ、結局無為に時を過ごすうちに、前記のとおり、豊角は、その組合長としての権限を濫用して、本件貸付に係る契約を締結してしまった(ちなみに、豊角は、三重県による組合運営に関する是正改善命令にも容易に従わず、昭和六〇年一月、三重県から辞任勧告を受け、ようやく組合長を辞任するに至った。)。なお、控訴人は、被控訴人について右のような新聞報道がされたことを本件貸付当時全く知らなかった。」
二 A事件についての判断
当裁判所も、被控訴人のA事件についての請求は理由があるから認容すべきものと判断する。その理由は、次に訂正、付加するほか、この点に関する原判決理由(原判決二〇枚目表一一行目冒頭から同二三枚目表二行目末尾まで)説示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決二〇枚目裏三行目の「行為」の後に「の内容とそこに至る経緯等」を、同一〇行目の「返済したこと」の後に「が認められ、これらの事実からして、右本件債務負担行為は、その実質においては、被控訴人が丸十産業に対し、一方的に信用ないし人的担保を提供したものにほかならないというべく、これに照らすと」をそれぞれ加え、同二一枚目表四行目の「を形式上」から同一〇行目末尾までを「による制限を回避するためであったものと推認される。そして、農協法一〇条との関係においては、当該行為の形式もさることながら、その実質に則ってその該当性の有無を検討することが後述の同法条の立法趣旨にかなうものというべきであるから、以上認定の事実関係のもとにおいては、本件貸付における被控訴人組合の債務負担行為は、農協法一〇条六項二号にいう保証に該当するものと解するのが相当である。」に改める。
2 同二一枚目表一一行目から同枚目裏一行目にかけての「組合であり」の後に、括孤書で「弁論の全趣旨により認められる。」を加え、同二二枚目表九行目の次に、行を改めて次のとおり加える。
「ところで、以上の点につき、控訴人は、被控訴人等の農業協同組合が他から金銭の借入を行うことは、農協法上何ら制限されておらず、他方、被控訴人は、丸十産業と共同でグリーンタウンの宅地造成、販売事業を行っていたものというべく、その資金の確保についても、直接、重大な利害関係を有していたなどとして、本件債務負担行為を農協法上の保証と解すべきではない旨主張する。
しかしながら、まず、一般に農業協同組合が金銭の借入を行うにつき、農協法上特段の制約のないことは、控訴人主張のとおりであるとしても、そのことから、直ちに、いかなる目的、態様の金銭借入行為も、当然に農業協同組合の事業目的の範囲内にあると解することはできない。むしろ、少なくとも、その金銭借入に際し、借入に係る金銭を直ちに農業協同組合の事業目的の範囲を外れた使途に充てるべきことが確実に予定されており、貸主側においても、その事情を熟知しながら、これを前提として金銭の貸付を行ったというような場合には、その法律行為の方式が保証の形をとると否とにかかわらず、そもそも、そのような借入行為自体、前示の農協法一〇条の立法趣旨に照らしても、当該農業協同組合に対価、代償のない一方的な債務負担を生ぜしめるものとして、効力がないものと解さざるを得ない。しかして、本件債務負担行為がその金銭借入の目的、態様からして、右のとおり農協法上借入行為自体を無効と解すべき場合に当たることは、前示認定の事実により明らかである(なお、農協法一〇条一〇項各号によれば、特別の条件を満たす場合には、農業協同組合がその組合員以外の者に金銭を貸し付けること(いわゆる員外貸付)ができる旨定められているが、《証拠省略》からうかがわれる右法条の立法趣旨などからして、農業協同組合は、自己資金を活用する範囲内でのみ右のような員外貸付を行うことが許されるというべく、わざわざ他から資金を借り入れ、これをそのまま員外貸付に回すことは、右農協法一〇条一〇項各号の予定し、認めるところではないというべきである。)から、これに反する控訴人の主張は失当というべきである。
なお、控訴人は、契約当事者が連帯債務の法形式を選択している以上、これを保証行為と解するのは不当であるとも主張するが、前示のような農協法一〇条の趣旨からして、同条六項二号にいう保証とは、農業協同組合に金銭の受入なくして対外的な債務負担を生ぜしめるなど、それが実質的にみて保証行為に当たる場合をも包含するものと解すべきであるから、かかる内容を伴う法律行為については、たとえ当事者が保証以外の法形式を選択しても、これを有効と解するに由ないことは明らかである。従って、この点の控訴人の主張も採用し難い。
更に、控訴人が被控訴人と丸十産業を共同事業者である旨主張する点についてみても、確かに前示のとおり、従前被控訴人が信連共々丸十産業と継続的に取引があり、殊に、グリーンタウンの造成事業に関しては、多額の融資を行うなど、種々積極的にその完成に向けて支援、協力を重ねていたことは十分うかがえるところであるけれども、かかる事実関係のみをもって非営利法人であり、法令により宅地の造成、販売等を事業目的とすることが認められているわけでもなく、もちろん、実際のグリーンタウンその他の宅地造成工事にもかかわっていない被控訴人が、一般的に宅地の造成、販売を業とし、あるいは、丸十産業と共同でグリーンタウンの造成事業を営んでいたものとは、到底評価し難く、前示のとおり、被控訴人がグリーンタウンの宅地造成、販売をその事業目的とし、あるいは、これを附帯事業として行っていたということはできない。そして、被控訴人が丸十産業のグリーンタウン造成工事の完成にどれだけ深い利害関係を有していたかという点も、本件債務負担行為が例外的に被控訴人及びその組合員の利益につながったか否かを判断する上では参酌され得ないではないとしても、右債務負担行為が農協法上の保証であるか否かの判断を直接左右する事情ではないというべきである。
以上のとおり、本件債務負担行為が農協法上の保証行為ではないとの理由により、その無効であることを争う控訴人の主張は、いずれも採用することができない。」
3 同二二枚目裏一一行目の次に、行を改めて次のとおり加える。
「控訴人は、本件債務負担行為が被控訴人の財産に著しい損害をもたらすおそれはなく、むしろ、その当時の経営判断としては、被控訴人及びその組合員の利益のために行われたものであるから、右行為は、仮にそれが農協法一〇条にいう保証であるとしても、そのことの故に無効にはならない旨主張するけれども、前示のような農協法一〇条の設けられている趣旨からしても、また、保証という法律関係が、そもそも客観的、類型的にみて、保証人の財産に影響を及ぼすべきおそれを多分に内在させているものであることからしても、本件のような保証行為が有効となり得る場合を、控訴人主張のように緩やかに認め、あるいは、その成否に経営判断というような不確実な要素を持ち込むべき合理的な根拠は見いだし難い。かえって、右の諸点にかんがみれば、本件のような保証行為が例外的に有効とされうる場合があるとしても、それは、保証に係る債権の額が比較的少額であり、他方、これにより農業協同組合ないしその組合員の受けるべき利益が相対的に著しく大きく、かつ確実であるとき、あるいは、農業協同組合が主たる債務者から保証に係る求償債権につき、確実かつ容易に実行し得る担保の提供を受けているときなど、極めて限定された場合に限られるものと解するのが相当である。そして、本件貸付金が極めて多額であること(五〇〇〇万円。なお、第一回貸付は一億円。)、これにつき被控訴人が丸十産業から確実な担保を徴したと認めるべき証拠は全くないことなどにかんがみると、仮に、グリーンタウンの宅地造成工事の完成に対し、被控訴人が、おおむね控訴人主張のような利害関係を有していたとしても、これをもって本件保証行為が例外的に有効になり得る場合であるとは、到底解することができない。」
三 B事件中主位的請求についての判断
当裁判所も、控訴人のB事件中主位的請求は理由がなく、これを認容した本件手形判決(津地方裁判所昭和六〇年(手ワ)第二六号、昭和六〇年一二月一八日判決言渡)は、民訴法四五七条二項に従いこれを取り消した上、右主位的請求を棄却すべきものと判断する。その理由は、次に付加するほか、原判決理由(原判決二三枚目表四行目冒頭から同枚目裏四行目末尾まで)説示のとおりであるから、これを引用する。
原判決二三枚目裏二行目の次に、行を改めて次のとおり加える。
「控訴人は、いわゆる手形行為の無因性などを根拠として、被控訴人がみだりに原因関係の欠缺を抗弁とし得ない旨主張するが、少なくとも、被控訴人が本件手形の直接の受取人である控訴人に対し、手形行為の原因となる法律行為が無効である旨の抗弁を提出し得ることは、法律上明らかであり、控訴人主張のような事由により、これが制約を受けると解すべき法的根拠は何ら見いだし難いから、控訴人の右主張は、到底採用することができない。」
四 B事件中予備的請求についての判断
1 前記一における認定事実によれば、本件貸付当時被控訴人の組合長であった豊角に、本件貸付を受けるにつき、故意又は過失による違法な職権濫用行為、あるいは、職権を逸脱した行為の存したことが認められる(他の理事らに諮らず、虚偽の理事会議事録を勝手に作成した点は故意があり、農協法一〇条の制限を回避しようとして本件債務負担行為に及んだ点は、少なくとも、同法条の解釈に精通しているべき者として、過失があったというべきである。)そして、豊角の右職権濫用等の行為が外形上その職務行為と同視すべき態様のものであったことも、前示の事実関係からして明らかであるから、被控訴人は、農協法四一条、民法四四条一項により、右豊角の違法な職務行為により控訴人に生じた損害を賠償すべき責任があるというべきである。
ところで、この点につき、被控訴人は、(一)本件貸付につき、民法四四条一項の損害賠償責任を問われるのは、これを無効とする農協法一〇条の趣旨と矛盾し、不合理である旨、(二)豊角の行為は、明らかに被控訴人の事業目的を外れたものであるから、これをもって同人の職務行為とはいえない旨、(三)控訴人において、豊角の行為に前記のような職権濫用等が存することにつき、悪意又は重過失があったから、損害賠償責任は生じない旨主張するので、検討する。
まず、(一)の点については、農協法一〇条による農業協同組合の行為の制限は、その制限に触れる行為を無効とするにとどまり、直ちに、他の法律関係において、農業協同組合の利益を絶対的に保障すべき趣旨まで含んでいるものとはいい難く、かかる農協法一〇条の制限に触れる理事の行為につき、民法四四条一項の適用を排除する旨の明文の規定があるわけでもない。そうであるとすれば、被控訴人指摘の、農協法一〇条の背景にある農業協同組合における財産保護の要請は、後記のとおり、過失相殺の際参酌されるべき一事情とはなり得るとしても、これをもって全面的に民法四四条一項の責任を免れる根拠とすることは、到底できないものといわなければならない。
次に、(二)の点については、たとえ当該理事の行為が職権を濫用、逸脱した行為と認められる場合であっても、それが本来の職権行使に仮託し、有効、適法であることを装って行われた場合には、民法四四条一項との関係においては、これを外形上本来の職務行為と同視すべき行為と解するのが相当というべく、これと立場を異にする被控訴人の主張は、採用することができない。
更に、(三)の点については、一般論としては、被控訴人主張のとおり、当該理事の行為に職権の濫用、逸脱があることにつき、相手方に悪意又は重大な過失が認められれば、民法四四条一項の損害賠償責任は生じないものと解すべきであるが、前記一で認定した事実関係をもってしては、本件貸付に関し、控訴人に右のような悪意又は重過失が存したものとまでは認めることができず、他に、証拠上これを推認させるべき事情も存しない。このうち、特に、本件債務負担行為が農協法一〇条六項二号の制限に触れ無効であることとの関連につき付言するに、前示のとおり、本件貸付における契約当事者の所為は、これを客観的にみる限り、右農協法の制限規定を回避する目的で行われたものと評価せざるを得ないものであるが、そのことは、必ずしも、右契約締結時において、契約当事者がその無効であることを熟知し、あるいは、これを知らないことにつき重大な過失があったということまで意味するものではない。むしろ、右農協法一〇条六項二号の法文上は、保証行為についての制限に触れるにとどまり、連帯債務もしくはこれに準ずべき法律行為の効力には、直接言及していないことなどを勘案すれば、本件貸付につき、控訴人に右の悪意、若しくは重過失を認定することは、困難であるといわなければならない(ただし、いわゆる軽過失を認めるべきことは、後記のとおりである。)。
以上のとおり、被控訴人の主張は、いずれも失当というべきである。
2 控訴人において、本件貸付が有効であるものと信じてこれを行うに至ったことは、前示の事実関係からして明らかであり、また、右貸付金のうち残金元本二五〇〇万円につきその回収の見込みが全くないことも前認定のとおりであるから、控訴人は、前示の豊角の不法行為により、二五〇〇万円の損害を被ったものというべきである。なお、控訴人主張のうち、約定利率に基づく遅延損害金を右損害の一部として請求する部分は、本件損害賠償請求が債務不履行に基づくものではなく、基本となる契約の無効を前提とするものであることに照らし、これを理由あらしめる法的な根拠を見いだし難く、失当といわざるを得ない。
3 本件にあらわれた諸般の事情を参酌すれば、本件における損害賠償責任については、民法七二二条二項に従い、三割の過失相殺を行うのが相当というべきである。その理由は、要旨次のとおりである。
(一) 前記一で認定した事実関係によれば、控訴人の第一回貸付及び本件貸付を行うに際しての担当者は、被控訴人と丸十産業の関係や被控訴人の資金力などについては相当詳しい調査を行ったと認められるものの、豊角の行為が職権を濫用、逸脱するものであるか否かにつき周到な調査を遂げていたものとはいい難い。すなわち、まず、本件貸付等が農協法一〇条の制限に触れるか否かの点については、関係機関等に対する照会、確認等が十分には行われていない(農協法に詳しい農業協同組合の上部団体、あるいは、法律専門家である弁護士等に問い合わせれば、本件のような貸付につき、法律上疑義を差し挟む余地のあることを知り得たはずである。)し、また、豊角が他の被控訴人の理事らの了解を得て債務負担行為に及んでいるか否かの点についても、豊角らの言動を信用するのみで、被控訴人の他の理事や参事等から事実確認を行う手だては、何らとられなかった。加うるに、控訴人は、常時多数の金銭貸借を取り扱う専門の金融業者であること、第一回貸付及び本件貸付における貸付金額が極めて多額のものであること、被控訴人のような非営利法人である農業協同組合が金融業者に対し、保証若しくは連帯債務の負担を申し出ることは、めったにないケースであったこと(《証拠省略》により認められる。)などを勘案すれば、控訴人としては、とりわけ慎重な事前調査を行うべきものであったと解さざるを得ない。以上の諸点にかんがみると、いかに丸十産業の関係者や豊角の言動がもっともらしく、その提出に係る書面や資料自体に矛盾や不備な点がうかがわれなかったとしても、控訴人側に、本件貸付を行うにつき過失があったことは否定し難い。
(二) しかしながら、何といっても、無効に帰すべき本件債務負担行為を成立せしめた最たる責任が、前示のとおり故意に基づく違法行為までをもあえてした豊角に存することは明らかであり、被控訴人は、民法四四条一項により、右豊角に代わってその責任を負うべき地位にあるものなのであるから、過失相殺を行う上においても、この点を十分念頭に置くべきは当然のことといわなければならない。
(三) 更に、本件のような無効な債務負担行為が行われた背景、経緯として、豊角を除く被控訴人の他の理事や参事らが長年にわたり組合長の権限行使をチェックすべき機能を果たさずに、豊角の独走を許し、殊に、前示日新電機工事株式会社に対する不正融資疑惑が生じた後も、豊角の言に引きずられ、早急に徹底した疑惑解明を行わずに終わった点も、軽視することができない。前示のような豊角自身の行為の問題性もさることながら、かかる行為がやすやすと実行された背景には、右のような被控訴人役員、あるいは、被控訴人の組織全体としての重大、深刻な監督懈怠が下地としてあったものといわざるを得ない。
(四) その他、前示のとおり、農協法一〇条の立法趣旨として、農業協同組合の財産保護の要請が挙げられることなど本件証拠にあらわれた一切の事情を考え合わせると、前示のとおり、本件損害賠償については、三割の過失相殺をもって臨むのが相当というべきである。
4 以上によれば、被控訴人は、控訴人に対し、農協法四一条、民法四四条一項による損害賠償として、金一七五〇万円及びこれに対する豊角の不法行為(本件貸付が行われた昭和五九年一〇月三〇日と認められる。)の後である昭和六〇年一〇月二一日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を行うべき義務があり、控訴人の請求は、右の限度で理由があるから正当として認容すべきであるが、その余は理由がないから失当として棄却すべきものである。
五 よって、原判決のA事件及びB事件中主位的請求に対する判断は、いずれも正当であるから、控訴人のA事件に関する控訴を棄却するが、控訴人のB事件に関する当審における新たな請求に基づき、原判決主文三、四項を主文二項1ないし4のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宇野栄一郎 裁判官 日高乙彦 畑中英明)